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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)468号 判決 1969年5月26日

控訴人

矢島清作

代理人

乃美退助

ほか二名

被控訴人

西良之助

代理人

北尻得五郎

ほか一名

被控訴人

藤原作栄

代理人

北尻得五郎

ほか二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して八、八三七、五六六円八一銭ならびにうち八、二七一、七五八円七銭については昭和三〇年一月二九日から、うち二一五、八〇八円七四銭については昭和三〇年七月九日から、残額三五〇、〇〇〇円については昭和三八年一二月一四日から、いずれも支払の済むまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所は、結局控訴人の請求の一部を正当と認めるのであるが、その理由は左のとおり付加訂正するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。<中略>

(二一) 同一二行目以下を、次のとおり訂正する。

更に控訴人は、被控訴人らが、第一日新石油の取締役としての職務を行うにつきその忠実義務に背反し共謀のうえ悪意または重大な過失をもつて、控訴人の第一日新石油に対する債権を侵害したと主張するので審究するに、さきに認定した事実関係からすれば、被控訴人藤原は、第一日新石油(同会社は、被控訴人西の資産、信用を背景とし、第一物件のような担保価値ある財産を有していた)の取締役でありながら、同会社を舞台として、故意に籠抜け詐欺類似の方法により、第二日新石油、被控訴人藤原個人、昭栄石油株式会社に、控訴人との石油製品売買による利益を帰属させ、他方昭和二七年一一月一日自己の支配下にあつた第一日新石油を解散させ(解散の時については、前掲甲第一号証による)、解散時に見るべき財産を残さず(この点については、被控訴人西において成立を認め、したがつて被控人藤原との関係でも成立を認め得る甲第二一号証による)もつて控訴人の第一日新石油に対する前記石油製品売掛代金債権の実行を極めて困難にし、控訴人に対しこれと同額の損害を被らせたものというべきであり、また被控訴人西は、かつて被控訴人藤原から受けた恩義にひかれて、第一日新石油の取締役でありながら、被控訴人藤原の右所為に故意に加功したものというべきである。控訴人が本訴提起以来商法二六六条の三に基き主張する事実は、包括して一個の請求を構成するものというべく、その趣旨は要するに右趣旨をいうにほかならないものと解することができるから、控訴人の右主張は正当である。なお被控訴人らは、控訴人の右主張にかかる請求権につき消滅時効を採用するので審究するに、右の商法二六六条の三に基く請求権は、法が取締役に特別に負わせた責任に基く請求権であるから、債権の消滅時効に関する一般原則にしたがい、一〇年の消滅時効期間の定めに服するものと解するのが相当であり、また右請求権は、会社に対する債権とは別個の請求であるから、会社に対する債権の時効消滅によつて当然に消滅するものではないと解するのが相当であるところ、本件弁論の全趣旨によれば、控訴人が損害の発生および被控訴人らの帰責事由を知つたのは昭和二八年五月頃であることが認められ、また本訴提起の日が昭和二九年一二月三日であることは記録上明らかであるから、被控訴人らの右消滅時効の抗弁は理由がない。

してみると、控訴人の商法二六六条の三に基く請求は、被控訴人らに対し、前記売掛代金と同額の一〇、二八七、五六六円八一銭中の八、八三七、五六六円八一銭ならびにうち八、二七一、七五八円七銭(訴状記載の請求金額)については昭和三〇年一月二九日(訴状送達の日の翌日)から、うち二一五、八〇八円七四銭(控訴人の昭和三〇年六月二〇日付請求の趣旨訂正申立並びに事実陳述書と題する準備書面記載の請求金額と訴状記載の請求金額との差額)については昭和三〇年七月八日(右準備書面陳述の日の翌日)から、残額三五〇、〇〇〇円(控訴人の昭和三八年一〇月二八日付請求の趣旨訂正と準備書面による請求拡張部分の一部)については昭和三八年一二月一四日(右準備書面陳述の日の翌日)から、いずれも支払の済むまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を連帯して求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきところ(なお控訴人の前記事実欄(五)の民法七〇九条による損害賠償請求((これは当審における新請求であるが))については、本件弁論の全趣旨によれば、控訴人は遅くとも昭和二八年五月頃には損害および加害者を知つたものと認むべきところ、本件訴状には、右請求をする旨の記載がなく、他に時効中断に関する主張立証がないから、仮に右損害賠償請求権が発生したとしても、昭和三一年五月頃の経過と同時に時効によつて消滅したものというべく、右請求は全部失当である)、原判決はこれと結論を異にするので変更を免れない。よつて民訴法九六条、九二条但書、八九条、九三条に則り主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言は、これを付することが相当とは認められないので付さない。(入江菊之助 乾達彦 小谷卓男)

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